シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 2 【派遣生活の果てに 2】
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入社して半年で、化粧をせずに会社に行くようになった。
それからさらに3ヵ月後には、
眉毛を整えることすら億劫になっていた。
私はもともと眉毛が濃かったので、たまに鏡を覗くと、
眉毛がうっすらつながっていた‥‥なんてこともよくあった。
でもそれすらどうでもよくなっていた。
ランチタイムには、
会社の売店で袋パンやカップヌードルを買って食べた。
そんなものばかり食べるものだから、体重も増え始め、
自分の最高体重記録を更新し続けた。
このままではヤバいという危機感が無かったわけではないけれど、
それよりも「もうどうにでもなれ」という
開き直った気持ちのほうが強かった気がする。
オシャレをするモチベーションも、お金もない。
オシャレな姿を見せたい人もいない。
唯一の楽しみは、会社の帰りに地元のレンタルDVDショップに寄って、
雑誌を読んだりDVDを借りたりすることだった。
もともと洋画や海外ドラマが好きだった私は、
よくDVDをレンタルして観ていた。
コメディもサスペンスも好きだったけれど、
女性が主人公のものをよく観た。
一人の女性が、悩みを抱えながらも成長していくような、
そんなサクセスストーリーが好きだった。
ドラマの中のヒロインたちは、
壁にぶつかりながらもそれを乗り越えて成長し、
やがてはそれぞれの幸せを見つけていく。
普遍的でありきたりなストーリー。
私はそんなヒロイン達が妬ましかった。
彼女たちは、どんな大きな壁を乗り越えてでも、
必ず最後には幸せになるのだもの。
でも当時の私は、サクセスどころか、
平凡な幸せと呼ぶにさえもあまりに退屈な日々を送っていた。
ドラマチックな人生なんて、私には無縁だった。
自分のふがいなさに落胆する一方で、
『私なんてこんなものさ。』という
どこか開き直りのような気持ちさえ持ち始めていた。
そう私の人生なんてこんなものなんだ。
そういう運命なんだ、と。
★
そんなある日、いつものようにDVDを借りて帰ろうとした時のことだった。
ふと店のガラス窓に目を向けると、
どんよりとした、いかにもネクラそうな女が映っていることに気づいた。
よくよく見ると、
それは私だった。