シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 12 【Ninja Girlsの誕生】
<はじめての方はまずは から>
そう、全てのはじまりは、この唐突な一言だった。
「ねぇ、あたしたちシンガポールで一番有名な日本人になってみない?」
そう言うさくらちゃんはまるで、
「ねぇ、メンマ好き?」とでも訊くような軽い感じだったものだから、
私も思わずこう返していた。
「いーよ!(はあと)」
この会話が私たちの人生を、こんなにも大きく変えてしまうだなんて。
★
この「シンガポールで一番有名な日本人になってみる」というアイディアは、
さくらちゃんがシャワーした髪をドライヤーで乾かしている時に降って来たらしい。
「でもね‥‥」
彼女はいつもの調子でちょっと気怠そうに続けた。
「有名になったところで、
あたしたちにどんなメリットがあるのかはまだよくわからないの。」
そうか、メリットか。
ちょっと考えてみたけれど、私にも全然ピンと来ない。
けれどほんの少し想像してみただけで、
そうなれたらなんだかとても楽しそうだということだけはわかった。
だから私は、ちょっと苦し紛れに聞こえたかもしれないけれど、
「きっと、有名になればわかるよ!」と笑っておいた。
実は私はもう、
このアイディアにたまらなくワクワクしはじめていたのだ。
★
二人組の女の子が「有名になりたい」という野望を持ったからには、
やはりユニット名が必要だろう。
そう考えた私たちは、その場でアイディアを出し始めた。
語呂が良くて、かわいくて、「日本」を思わせる、覚えやすい名前。
これがなかなか難しかった。
最初に思いついたのは、「Geisha Girls」。
でもさくらちゃんに間髪入れずに、「坂本龍一かよ!」とツッコまれてしまった。
どうやらすでにそんなグループが存在していたらしい。
他にも、「叶姉妹」からインスピレーションを受けた「山田シスターズ」を筆頭に
色々なアイディアが浮かんだのだけれど、
どれもこれもいまいちピンと来ない。
煮詰まったさくらちゃんが声を上げた。
「よし、【日本】を連想させる単語で、
【外国人が知っている単語】を思いつくだけ挙げて!」
うーん‥‥
スシ?
スキヤキ?
そしてその時、二人の口からほぼ同時に迸り出た単語があった。
「忍者!!!」
Ninjaはすでに、世界語として親しまれている。
日本を連想させるのはもちろんのこと、
強さやミステリアスさも同時に表現できる。
そして、努力や修行を重ねることで向上していけるポジティブなイメージもある。
これって最高のネーミングかも!
Ninja Girls誕生の瞬間だった。
それから私たちは、自分たちに日本らしい花の名前をつけることにした。
さくらちゃんと、つばきちゃん。
なんだか、源氏名みたいだね!と二人でキャピキャピ喜んだ。
こうして「くノ一」になった私たちは、
シンガポールいち有名な日本人へと、
小さな小さな第一歩を踏み出した。