シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 18 【初の協力者】
<はじめての方はまず目次からどうぞ>
キョロキョロと、何かを探すように歩いてくる一人の男性。
エディだった。
バーのテラス席に陣取る私たちを見るなり、
目を丸くしながら近づいてくる。
「わーお!
君たち、すっごく目立ってるんだけど!!
どうしたの??」
ビックリした彼の顔を見て、
私は何だかドッキリに成功したような気分になった。
ニヤニヤしながら、彼の顔を覗き込む。
「ビックリさせてごめんね?実はね‥‥」
私はこの「有名になる」というプロジェクトのこと、
その手段としてのブログのこと、
ブログのネタにするためのこの格好のことなどを手短に話した。
彼は相変わらずビックリした顔をしていたけれど、
同時に私たちの「有名になりたいプロジェクト」に興味を持ったようだった。
「すごく面白いアイデアだと思うよ。
なんなら、僕のカメラで君たちを撮ってあげようか。
それをブログにUPしたら良いんじゃない?」
話を聞き終えた彼が、満面の笑みでそう言った。
「え?ほんとに?いいの?」
同時に聞き返す、さくらちゃんと私。
プロが撮影した、クオリティの高い写真をUPしたら、
きっとすごく見栄えがすることだろう。
こんなに嬉しいことはない。
頑張ってアゲ嬢(アラサー)になった甲斐があるというもの。
私たちは、二つ返事で申し出を受けることにした。
★
「キミたちを最高にクールに撮ってあげるよ!
大丈夫、僕のカメラ超高性能だから!」
人でごったがえす、シンガポールリバーのほとりに、
怪しげな3人がいた。
ゲイシャ風着物を着た、
最高にクール(なはず)な2人のジャパニーズガール。
それを写真に収めようと、
時には地べたに寝そべりながらシャッターを押し続ける、
熱心なフォトグラファー。
道行く人々が、物珍しそうな顔で私たちを見ている。
もしかしたら、雑誌の撮影でもしていると思ったのかもしれない。
いわゆるモデルと呼ばれる人たちって、こんな気持ちなのかな?
緊張と恥ずかしさの中でぎこちなくポーズをとりながら、
私はそんなことを思った。
「そう、もう少し顎を引いて。
目線は向こう側に。
そうそう、いいねー!
最高にクールだよ!」
さすがプロのフォトグラファー。
エディにとっては、モデルをノセるのもお手のものだ。
彼のおかげで、最初はうまくポーズを取れなかった私たちも、
だんだん撮影を楽しめるようになっていった。
バーのテーブルで、川べりで、人が行きかう交差点で‥‥
私たちは転々と場所を移動しながら、
その場所その場所で思い切り撮影を楽しんだ。
★
「ありがとう、エディ!」
撮影が終わった時には、深夜12時をとうに過ぎていた。
撮影の仕事で疲れているのに、
私たちの分を無償で撮影してくれるなんて、なんていい人だろう。
私は本当に感激していた。
「いいんだよ、僕もすごく楽しんだし。
撮った写真、僕がフォトショップで修正しとくよ!
肌をちょこっと滑らかに、
目をすこーしデカく修正しといてやるから!w」
仕上がりを見るのが楽しみで、さっそく顔がほころんでしまう。
更に彼は、こんなことを言って私たちを驚かせた。
「僕、Ninja Girlsの公式フォトグラファーになるよ。
撮影する時はいつでも呼んでくれよな。」
★
話ができすぎてないか?たしかに一瞬、そうとも思った。
まだ方向性もあまり決まってない怪しげなガールズユニットに、
公式フォトグラファーがつくなんて。
しかも、活動一日目にして。
でも、これって神様からのプレゼントなのかも。
頑張って、恥ずかしさを押し殺して、
アゲ嬢になったご褒美なのかも。
結局私たちはエディの申し出をありがたく受け、
彼はNinja Girlsの公式フォトグラファーになった。
★
今思えば、この頃の私は今より純粋だったのかもしれない。
いい意味でも、悪い意味でも。
記憶を振り返ってみると、この時さくらちゃんは少しだけ、
笑顔の中に困ったような表情を浮かべていた気もする。
けれど私はこの時まだ、
そんな表情を読み取れるほどには彼女をよく知らなかったし、
エディのこともよく知らなかった。
ただただ純粋に嬉しかった。