シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 30 【はじまりは突然に】
<はじめての方はまずは目次から!>
その日、いつものようにオフィスにいた私は、
朝からどうも身体がだるかった。
午後になると頭痛がひどくなり、
しまいには寒気がしてきた。
「こりゃ熱あるなー。」
こんな時は病院に行って、
ポカリとゼリーを買い込んでから家に引きこもるのが鉄則だけれど‥‥
正直、病院まで辿り着けるかどうか不安なくらい、具合が悪い。
朦朧とする意識の中、私はどうしていいのかわからずに、
とっさにエディに電話していた。
「エディ‥‥なんかあたし‥‥熱あるみたい‥‥。
すっごく具合悪いんだけど‥‥。」
私の声の調子がいつもと違うことを察したのか、
エディはすぐにこう言った。
「つばき、俺が今から迎えに行くから。そこにいて。」
彼は、ものの10分もしないうちにオフィスまで私を迎えに来た。
私を見るなり、おでこに手をあて、首を振る。
「こりゃ、ひどいな」
朦朧としていた私は、その後のことをあまりよく憶えていない。
ただエディが病院に連れて行ってくれ、
スポーツドリンクと食料を買ってくれ、
それはそれは甲斐甲斐しく世話をしてくれたことだけは記憶にある。
その優しさと面倒見の良さは、本当にステキだった。
やっぱり、人間弱っている時に優しくされるとグッとくるものだ。
おかげさまで回復し、すっかり元気になった私に、エディはこう言った。
「つばき。
君みたいに、おっちょこちょいでフラフラして目が離せないような子には、
俺みたいなしっかりした彼氏が必要だよ。
俺たち付き合ったらうまくいくと思うよ。」
わたしはエディのいきなりの告白?にビックリしたのだけれど、
考えてみれば、確かに私のように危なっかしいタイプには、
しっかりした彼氏がいた方が良いのだろう。
今まで恋愛対象として見たことはなかったけれど、
こんな私とお兄さんキャラの彼とは相性が良いのかもしれない。
そう思った私はしばらく考えてから、
「いーよ(はあと)」
と、答えた。
いつもさくらちゃんの提案にのる時みたいに、かるーい感じでね。
エディは笑いながら言った。
「君のそんなとこが好きだよ。
なんかちゃんと考えてるのか、考えてないのか、
よくわかんないようなとこがねw
大丈夫だよ。
俺がちゃんと面倒みてやるから
(Don't worry, I will take care of you)」
そう言った彼は、ものすごく頼もしく見えた。
Don't worry. I will take care of you.
彼はその後、私を安心させようとする時に何度となくこのセリフをいった。
なんにも心配いらない。俺がいるんだから‥‥ってニュアンスでね。
その度に私は、彼を心から、頼もしいなと思った。
この言葉が後に私を苦しめる事になるなんて、
この頃はまだ知らなかったから。