シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 48 【初の本格的ミーティング】
<はじめての方はまずは目次から!>
2、3、4‥‥と、静かに移り変わる階数表示ランプを見つめるさくらちゃん。
いつもより丁寧に塗られたルージュの口元は、キュッと結ばれたままだ。
エレベーター内に充満する緊張感に耐えきれずに、
私はひとつ大きな深呼吸をした。
チーン!
小気味好い音をたてて開くドア。
意を決したように、さくらちゃんが外へと踏み出す。
その視線の先には、到底オフィスらしくない、
まるで隠れ家ナイトクラブのエントランスのような小さなドアが待ち構えていた。
★
もう引っ越してしまったらしいのだけれど、当時の77thStreetのオフィスは、
まさにシンガポールアパレルの最先端を走る企業!といったポップさに溢れていた。
通路にはクラシカルなビリヤードテーブルが鎮座し、
オフィスの随所にはスターウォーズや音楽関連のグッズが。
マックに向かって作業をしているスタッフも皆ファッショナブルで、
モニター越しにモヒカンや金髪の先っぽが覗いていた。
私たちはこれまたとんでもなくオシャレな会議室に通され、
伝説の女傑、エリムさんを待つこととなった。
けれど、出していただいたコーヒーをちびちびと飲んでいると、
緊張と興奮が少しずつ不安に変わって来てしまう。
オフィスまで乗り込んで来ちゃったけど、本当にこれで良かったのかな‥‥。
どこの馬の骨ともわからない末端ブロガーが、こんなところに来ていいのかな‥‥。
そもそもエリムさん、私たちにこんな話を持ちかけられて迷惑じゃないのかな‥‥。
二人でいるといつもお喋りが止まらなくなる私たちも、
この時ばかりは無言でコーヒーを啜っていた。
考えてみれば、これは初めての本格的な企業とのミーティングなのだ。
‥‥その時。
固まって黙り込む私たちの背後で、
静かにミーティングルームのドアが開いた。