シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 54 【恋と幸せと】
<はじめての方はまずは目次から!>
私にとってエディは、
初めて付き合う外国人のボーイフレンドだった。
彼はNinja Girlsにもフォトグラファーとして最初から関わってたから、
必然的に一緒にいる時間も長かった気がする。
Ninja Girlの撮影をしていない時は、良く2人でドライブにいった。
初めてマレーシアに行った時のことは、今でもよく憶えている。
シンガポールから車で3時間ぐらいの、世界遺産の街マラッカに、
2人っきりで旅行に行ったんだよね。
私は初めてのマレーシアに大興奮だった。
だって車で外国に行けるってコンセプト、
日本人には新鮮じゃない?笑
それに、シンガポール以外の"外国"に行くのは初めてだったしね!
エディが高速をぶっ飛ばしている間ずっと、
見渡す限り椰子の木のプランテーションが広がっていた。
そして車内にはエンドレスで、
Maloon5の"Moves like jaguar" が流れてたっけ。
私は、開け放った車の窓から吹き込んでくる、
気持ち良いトロピカルブリーズに吹かれながら、
「あー、ここはやっぱり東南アジアだ。南国なんだ。」
なーんて、わかりきったことをしみじみ考えていた。
意外かもしれないけれど、大都会シンガポールにいると、
南国に住んでる実感があんまり湧かない時もあるんだ。
特にオフィスやショッピングモールの中は、
冷房のおかげで北国並の寒さだからね笑
★
周りの車をスイスイ交わしながら走り抜けるエディの車の中で、
私は突然どうしようもなく、幸せを感じてしまった。
「なんか私、幸せ‥‥」
気がつくとふとそう呟いていた。
隣でハンドルを握るエディがニヤリとする。
「それは、俺みたいに優しいボーイフレンドがいるから、って意味?」
「なにそれ?自信満々だね 笑」
笑いながらそうはぐらかす私に、エディはこう言った。
「でも、マジで君はラッキーだと思うよ。
日本を出てたった一人で知らない国に来るなんて、すごいリスクじゃん。
でも君はそれをやってのけて、そして今、
ずっと欲しかったものをもうほとんど手に入れてるんじゃないかい?」
確かにほんの数ヶ月前まで、
私は日本の片田舎で働く派遣社員だった。
夢もなく、お金もなく、ただ毎日をやり過ごすだけで精一杯だった。
なのに気がつくと私はシンガポールで、
安定した職と、頼れる恋人と、最高に楽しい仲間と、
そして"Ninja Girls"という夢を手に入れていた。
★
「‥‥そうだね。確かにそう思う。」
窓の外には、相変わらず延々と椰子の木だけが続いている。
圧倒されるほどの緑が、終わること無く視界を流れ続けている。
その時私は、自分の心の中に、恐怖に似た何かが存在していることに気づいた。
正確に言うと、エディの問いかけで、その恐怖の存在に気づいてしまったんだ。
私は多くを手に入れたということ。
けれどその手に入れた幸せにさえ、もはや満足していないということ。
すべてが通過点にしか過ぎないと、自分でもわかっているということ。
もっと欲しい。
こんなんじゃ満足できない。
そう思った自分が怖かった。
けれどもっと怖かったのは、それをなぜかエディに言えなかったことだった。
別に自分の気持ちを隠す必要なんてなかったはずなのに。
あの時の私は一体、何を予感していたんだろう‥‥。