シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 59 【さようなら、エドウィンさん】
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この頃さくらちゃんは、
Ninja Girlsの方向性について思い悩むことが多くなってきていた。
「なんかね、仕切り直さなきゃいけない気がするの。
何かが決定的に違っている‥‥そんな気がして。
でもどこをどう直すべきなのか、まだハッキリしないんだ。」
たしかこんな風に言っていたっけ。
そしてさくらちゃんの憂鬱は、ある人との別れによって決定的になる。
私たちを最初にパーティに呼んでくれたエドウィンさんが、
闘病の末、この世を旅立ってしまったんだ‥‥。
★
さくらちゃんはエドウィンさんと特段親しかったわけではないのだけれど、
どうやら彼の生前に「親しくなれそうな機会」は何度もあったらしい。
けれど彼女はその機会を逃してしまった。
幾度かエドウィンさんを交えての食事に誘われたらしいのだけれど、
彼が重大な病気と闘っていることを知っていたさくらちゃんは、
足がすくんでしまったのだという。
これ以上親しくなって、もし万が一、
彼の病気が悪化し別れが訪れてしまったらどうしよう。
苦しくて、悲しくて、壊れてしまうかもしれない。
だから卑怯だけれど、親しくなるのがとても怖い‥‥
エドウィンさんは本当に優しくて明るい人だった。
皆に愛される人だったし、彼と会った人は誰だって彼が好きになった。
だからこそさくらちゃんは、彼と距離を取ろうとしたのだと思う。
他人に感情移入しすぎる傾向がある彼女なりの、苦し紛れの行動だったに違いない。
けれど、そんな矢先に届いたエドウィンさんの訃報に、
さくらちゃんは打ちのめされてしまった。
彼が永遠にいなくなってしまったと聞いた瞬間に、彼女は気づいたらしい。
「私は自分の心を守るために、重大な機会を失ってしまった。
もしあの時怖がらずに親交を深めていれば、
この素晴らしい人がこの世を飛び立つ最期の瞬間までに、
ひとつでも多くの笑顔を、言葉を、交換できたかもしれないのに。
私はその機会を、自分自身の意思で、永遠に失ってしまった‥‥」
★
あの頃、さくらちゃんからこんな電話がかかってきた。
「つばきちゃん、パーティーの時の写真残ってる?
エドウィンさんが写ってる写真が、あるかもしれないと思って‥‥」
けれど、どんなに探しても、彼が写っている写真は見つからなかった。
代わりに見つかったのは、彼が写してくれた私たちの写真ばかり。
あの日は肝心のエドウィンさんに撮影係を押し付けて、
彼と一緒の写真は一枚も撮っていなかったのだ。
ファインダー越しに優しい瞳で私たちを見つめてくれていたエドウィンさんとこそ、
一緒に写真を撮っておくべきだったのに。
自分たちがいかに浮ついていたかを、改めて思い知らされた。
支えてくれる人や応援してくれる人のことを忘れて舞い上がっていた自分たちが、
たまらなく恥ずかしいと思った。
このままじゃいけない。このままじゃいけない。
けれど具体的にどうすれば良いのかがわからずに、私たちは深く沈み込んた。