シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 70【ケンカ】
「いったい何!?なんでこんなことするの!?」
さくらちゃんを車から降ろした後、私はエディに向かって叫んだ。
「さくらちゃんに対するあの態度は何なのっ!?」
恐怖と怒りのあまり、顔が熱い。
驚いたことに、エディはさっきとはうって変わって冷静になっている。
彼は涼しい顔で言った。
「何って?俺何もしてないじゃん。」
はぁぁぁー!?
「あんた今、普通の道路を120kmで走ったじゃんっ!なんであんなことすんのよっ!事故って死んだらどーすんのさっ!」
「‥‥俺はちゃんと事故を起こさないように、計算して走ってた!ぜんぜん危なくなんかなかったじゃん!」
もー、マジでビックリして開いた口がふさがらない。というか、問題はそこじゃないでしょ。
計算して走ってたとか、何の言い訳にもならないよ。
「だから、そうじゃなくて!なんでこんな暴走したり、さくらちゃんを無視したりしたの?!」
顔を真っ赤にして問い詰める私に、根負けしたようにエディは口を開いた。
「はぁ‥‥ねぇ、つばき。今日は土曜日だ。週末なのにキミは、俺に相談もせず友達との予定を入れたよね。
最近いつもそうだってこと気づいてる?
どうして俺と一緒に過ごす時間を取ってくれない?どうして、君は、俺と少しでも予定を合わせようって、思わないの?」
エディの言っていることも一理あるだろう。
私が自分のやりたいことを何より優先して、エディを二の次にしていたのは事実なんだから。
でも、だからと言ってエディの行動が正当化されるわけじゃない。
恋人との関係がうまくいかないフラストレーションをこんな形でしか発散できない彼の人間性。そっちの方がよっぽど問題じゃないの?
ふと携帯をみると、さくらちゃんからメッセージが来ていた。
「つばきちゃん、大丈夫?エディに何かされてないか心配だよ‥‥落ちついたら連絡ちょうだい。」
さくらちゃんの優しさにホッとするのと、情けないのとでなんだか泣きそうになった。
私は、一体なんでエディと付き合ってしまったんだろう。
私は、エディとの間にできた亀裂が最初はゆっくり、でもジワジワ加速しながら開いていくのをどうすることもできなかった。