シンガポールで1番有名な日本人の目指し方 119 【ゲイラン】
『One Minute Singapore』でシンガポール最大の歓楽街『ゲイラン』の撮影日が近づいていた。
いつものように呑気な3人を尻目に、さくらちゃんは悩んでいたらしい。
そう『ゲイラン』と言えば、夜の街。平たく言ってしまえば、『お姉ちゃんを買うところ』というイメージが強いんだ。『ゲイラン』を撮影するからにはそのイメージを完全に無視するわけにはいかないけど、下品な動画にはしたくない。それがさくらちゃんの悩みの種だったみたい。
でもいざ撮影を始めてみると、そんな心配は無用だったてことがわかった。
ビデオ撮影中に街角のドリアン屋のおじさんや、人懐っこく絡んできてくれる。
『君達日本人かい?』
ジブリの映画にでてきそうなひげモジャの、いかにも『下町のおじさん』がニコニコしながらゆりちゃんにドリアンを差し出す。
『ほれ、このドリアン持ってみなよ!』
おじさんにいわれて、おそるおそる手をさしだすゆりちゃんの困り顔がものすごく可愛い。
ゲイランは『美味しい食べ物の街』でもある。中でも『カエル粥』は有名。道路沿いにある店に大きな水槽があって、その中には大量の生きた食用ガエルが!!なんて光景もゲイランでは珍しくない。
そんな『食べ物天国としてのゲイラン』を動画の中でしっかり紹介できたと思うんだ。
もちろん『歓楽街』としてのゲイランもギリギリのラインで動画に盛り込んだよ。アダルトショップに興奮するさくらちゃんと私の迷演技は、多くの方にご好評いただけたみたい。
結局この動画は、再生回数25000回を超えるNinja Girls最大のヒット作品になった。
私たちはOne Minute Singaporeシリーズの撮影で、シンガポールという街を違った角度から見ることができた。そして毎回それぞれの町の新たな魅力を発見していった。
そして撮影が進む度に、私たちの『シンガポール愛』が深まっていったんだ。
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Ninja Girlsプロジェクトは私にとって、本当に生活の中心だった。もちろん会社には毎日いっていたけど、心は常にNinja Girlsのことを考えている、って状態だった。
日本をえいやっ飛び出して、シンガポール来てからもう一年以上が経っていた。憧れだった海外生活、安定した仕事、親友以上の絆で結ばれた仲間達、Ninja Girlsという日々大きくなる夢、私はたった一年ですべてを手に入れた。
日本にいる頃には想像も出来なかった世界を、この目でたくさん見た。
幸せだった。
幸せなはずだった。
でもね、人間って本当に愚かな生き物だよね。幸せになると、今度はその幸せを失うのが怖くなってしまうんだ。
だって、欲しかったものが手に入って、それがどうだっていうんだろう?
それをただギュッと握り締めて生きていくの?いつかそれが掌からこぼれおちてしまう恐怖と戦いながら?
私は、そんな恐怖に耐えれるほど強い人間じゃない。
手に入った幸せを握り締めすぎて壊してしまわないために、人は前進しつづけるのだろう。
心の声がいつもささやいていた。「これでいいと思うな。立ち止まるな。」
このとき私は予感していたのかもしれない。Ninja Girlsにまたまた大きな激震が走る事件が起こることを。