シンガポールで一番有名な日本人の目指しかた 58 【終わりの始まり】
<はじめての方はまずは目次から!>
77thStreetの撮影が終わってしばらくしたある日のこと。
私はさくらちゃんといつものコーヒーショップでグダグダとお喋りをしていた。
77thStreetとコラボできた興奮がまだ冷めていない。
あれ、夢じゃないよね? 本当に、起こったことなんだよね?
なんて言いながら2人ではしゃいでいたら、
突然さくらちゃんが真顔になって‥‥こう言ったんだ。
「私ね‥‥いや、お世話になってるからあんまり悪くは言いたくないんだけどさ。
エディにNinja Girlsのフォトグラファーをお願いして、
本当に良かったのかなって、ちょっと、思うんだ。」
どくん。
心臓が止まりそうだった。
★
さくらちゃんがそう思ったのは、
きっとあの77thStreetの撮影の時のエディの態度を見たからだろう。
やっぱり、違和感を感じたのは私だけじゃなかったんだ‥‥
ショックと同時に、なぜかホッとした気分になる。
確かにエディのあの日の態度は、明らかに何かを物語っていた。
それでも私は、自分の彼氏を悪く思いたくない一心で、
その気持ちに一生懸命蓋をしようとしていた。
ってか、そんなヤツだって認めたら、なんだか自分がいたたまれない。
だから私はトボけたフリをして、
「えー、なんでー?」と聞き返すのが精一杯だった。
さくらちゃんは、ちょっと考えるような目をしてから口を開く。
「エディはなんだか‥‥
Ninja Girls を自分の思い通りにしたい、
って思ってるように感じるの。
自分が全てをコントロールしたい、みたいなさ。」
それは私が感じたのと全く同じ気持ちだった。
黙って下を向くしかなかった。
★
最初は私も、エディは純粋に、
Ninja Girlsの為にいい写真や動画を撮ろうとしてくれているんだと思っていた。
でもそのうち、
彼はNinja Girlsを利用して自分が撮りたい写真を撮っているだけなんじゃないか、
と思えてきたんだ。私たちの方向性や意思なんか関係なく、
彼にとって都合の良い存在に持っていこうとする意図が感じられた。
でも、彼はプロのフォトグラファーだし、
無償でこの役を買って出てくれている。
彼に不穏な何かを感じても、
それを指摘することはせっかくの厚意を踏みにじることのように思えた。
けれど実際に彼は最近、Ninja Girlsの方向性について、
愚痴とも文句ともつかないことを言ってくることがチラホラあった。
そんな時私はいつも、
「方向性が良いも悪いも、
まだNinja Girlsは始まったばっかりなんだよ。
例え迷走してるように見えたとしても、そんなの当然でしょう?」
と言って彼をなだめてきた。
けれど今思い返してみると、私はもっと激しいケンカでもして、
エディと徹底的に向き合うべきだったのかもしれない。
それでも、ことなかれ主義の私は、面倒なことになるのを恐れて、
それ以上その話題に触れるのをやめてしまった。
心に鉛のように重い何かを抱えたまま‥‥。