シンガポールで1番有名な日本人の目指し方 86 【愛憎?】
私は小さい時から、本当にお母さん大好きッ子だった。
うちの、ちょっと変わった教育方針のせいで幼稚園にも保育園にも通わなかった私は、小学校に上がるまで、文字通り母親にべったりで過ごした。
まさに一心同体。どこにいくにも一緒、って感じだったんだ。
その分、母親の気持ちが手に取るようにわかったし、母親はそんな私を溺愛していた。
いつ頃からだろう。その愛が苦しくなり始めたのは。それでも、私は母親に反抗することができなかった。
私が何か、母親の意に沿わないことをしようとすると、彼女は少し不機嫌そうに、落ち込んだ声でこう言った。
「昔のあなたは、どこにいったのかしら?変わってしまったのね。全部お母さんのせいよね‥‥きっと、育て方を間違ったのね‥‥」
そして、こうも言った。
「全部お母さんのせいよね。生きていくのがつらい。もう死んでしまいたい‥‥」
そう言われるたびに、私は頭がおかしくなるくらい、罪悪感に苛まれた。
だって、母親を幸せするの小さい頃からの私の義務だったから。彼女の幸も不幸も、すべて私の責任だと思いこんでいた。
なんでだろう。こんなに愛されてるのに、私は何が不満なんだろう。
母親との心理的距離が近すぎた私は、「自分」というアイデンティティを築けないまま、大人になってしまったんだ。
そしてある日私は気づいてしまったんだよね。この息が詰まりそうな関係を「愛」とは呼ばないってことに。